Eros act-5 10

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 詳細な情報も無い事だし、ジェイ達を襲った実行犯の発見までは結構時間がかかるだろうと思っていたのに、阿公から予想外に早く答えが返ってきた。
 慶や麻紀を経由して話を聞いた俺とは少し違って、怪我を負った実行犯を治療した闇医者本人から電話を貰った阿公は、直接、かなり詳細な事情を説明されていたらしい。
 闇医者自身も治療を施した時に彼等の名前などは聞いていたものの、それが本名かどうかまでは分からないし、今までに会った記憶も無い奴だった。
 だから細かな部分の断言は出来そうも無いし、実行犯の特定は阿公達に任せようと、慶に話した事柄よりも詳しい話を伝えていた。
 同郷の者達に慣れた言葉で説明する方が細かなニュアンスまで伝わり易かったのもあるだろうけど、結果的にそれが一番良い方向に転がったんだと思う。
 いずれにしても、早めに分かって良かったとホッと胸を撫で下ろしながら、時間の都合が合った麻紀と慶が待っている地下室にへと急いだ。






 のんびりと出勤準備をしていた最中、突然、麻紀から電話がかかってきて「実行犯は台湾人らしいから……」と皆への仲介を頼まれたあの日、阿公の所に行って話をした後、普段より少しだけ遅れて店に向かった。
 一足先に店まで戻っていた麻紀の所に顔を出して、阿公から聞いた現時点での状況を簡単に伝えてから、俺に指名が入るまでの間、翔も部屋に呼んで色々と判明した事を話し合った。
 その時に聞いた話によると、慶や麻紀は初めから実行犯の特定には拘ってないし、闇医者にも彼等の特徴を深くは訪ねていなかったらしい。
 皆は元から真犯人にしか興味を持っていないし、実行犯が台湾の奴なら、その処罰は俺達に任せておけば良いと無条件で信頼を寄せてくれた。
 その気持ちに応えられる結果になって本当に良かったと改めて思いながら、既に人の気配が感じられる部屋のドアを開けた。




「あ、祐弥。意外と早かったね。麻紀から聞いた場所からだと、もう少し時間がかかるかなと思ったんだけど」
 ソファで寛いでる麻紀を他所に、一人立ち上がってキッチンスペースでゴソゴソしている慶が、和やかに声をかけてくれた。
「そうかも。話してた所を出て、駅に向かいながら電話してたんだ。切った直後には電車に乗れたし、真っ直ぐ帰ってこれたからさ」
「そうなんだ、良かったね。タイミング的にもちょうど良かったな。今からお茶を淹れようとしてた所なんだ」
「あ、いつもすいません。せっかく遠くまで行ってきたんだし、何かお菓子でも買ってくれば良かったなぁ」
 久しぶりに滅多に行かない様な所まで出掛けた上に、二人が待っているのは分かってたのになぁと今頃になって思い出した。
 こういう感じで皆で集まった時は、いつも慶が率先してお茶の準備をやってくれる。
 他にも何かと世話になってばかりだし、落ち着いたら手土産を持って彼の店まで遊びに行こうと考えつつ慶に答えて、麻紀の前にあるソファに腰を下ろした。




「確かに随分と遠い所まで行ってたな。結局、ソイツ等は逃げてたのか?」
 いつもの淡々とした口調で、言葉少なく端的に問いかけてきた麻紀に視線を向け、とりあえず頷いて応えた。


 ジェイの事件を起こして逃げていた奴等を発見した……と、阿公から場所を聞かされた時、それが何処だか本当に分からなかった。
 普段通りの穏やかな口調で電話をかけてきてくれた阿公は、怒り心頭な他のマフィア連中との兼ね合いや激怒中なトミーの気持ちが落ち着くまで、彼等を直ぐに此方へと連れ戻すつもりはないらしい。
 街に一番近い駅前に住んでいて、皆の前では料理屋さんとして振舞っているトミーだけど、この状況で落ち着いていられる筈がない。
 この時期に皆の目前で台湾人をボコボコにして怒っていたら、皆はトミーがマフィアだとは知らないものの、ジェイや麻紀みたいに勘の良いヤツなら事情を察してしまう可能性があるし、「コイツ等が実行犯です」と宣言しているのと同じ事になってしまう。
 自分でもその辺りは分かっているらしく、雇っている調理人達に「一週間ほど店を頼む」と宣言して突撃したトミーは、とりあえずの話を聞きだしてから阿公にへと連絡を入れた。
 結局、「トミー達は暫く戻ってこないだろうから、祐弥が向こうに出向いて事件に関する詳しい話を聞いて来い」と阿公に言われて電話を切った途端、麻紀に連絡するよりも、その場所を探す方を優先させてしまった。
 何とか交通手段も判明したけど、正直言ってすんなりと辿り着ける自信は無い。
 「色々分かったけど、戻ってくるまでちょっと時間がかかるかも……」と、その辺りの言い訳も含めて麻紀達に連絡を入れつつ、冗談抜きであちこちで迷いながら潜伏先まで行ってきた。


「俺も逃亡中の詳しい話は聞いてないけど、多分そうだと思う。あの辺りには台湾人なんてほとんどいない筈だし、何の繋がりも無い所だから。ほとぼりが冷めるまで逃亡して、誰にも見付からない所に身を隠すつもりだったんじゃないかな」
「日本の警察に追われているだけならともかく、首領の断りなく動いた挙げ句の騒動だ。逃げた奴にしてみれば、ソッチに怒られる方が怖かったんだろう」
「当たり。そう考えて咄嗟に逃げたみたいだけど、逆にバレバレだよなぁ。皆、連絡が取れる所で普通に生活してたのに、ソイツ等だけが大慌てで逃亡してるとか。自分で『俺達が犯人です』って宣言してるも同然だ」
 闇医者から話を聞いた阿公がトミーに事実関係を確認する様に伝えた時、直ぐに所在不明な奴が判明した。
 ただでさえ短気なトミーを前に、大騒ぎを起こした上に黙って逃げ出していたとなれば火に油を注ぐのも同然だとは思うけど、後先考えずに逃げたくなる気持ちはよく分かる。
 とにかく色んな事に真剣に怒りまくったトミーは、ジェイを襲った実行犯達をあっと言う間に探し出した。
 話を聞いて予想していた通りの怪我をして隠れていた奴等は、やっぱり捜査の手から逃れる為ではなく、阿公やトミーに黙っていたのがバレるのが怖くて、怪我が治るまで姿を晦ませる事にしたらしい。
 それも結局見付かってしまい、皆が予想してた通りに烈火の如く激怒しているトミーに、色んな意味で詰問された彼等は、ようやく観念して詳細を白状してくれた。


「結局、台湾マフィアが実行犯か……彼等なりの制裁があるんだろうし、その辺りに口を挟むつもりはない。自分達の方で好きにやってくれればいい。それで、依頼者は深水で間違いないんだな?」
 電話でも軽く説明はしていたものの、判明した事実を手早く伝えただけで、詳細は伝えていない。
 改めて念押ししてきた麻紀に頷いて答えながら、慶が持ってきてくれた珈琲を一口飲み、軽く気持ちを落ち着かせた。
「その辺は間違いない。『深水』ってヤツが今回の依頼者だって。藤原って人の側近なのも聞いてきた。慶さんが言ってた、あの深水の事じゃないかな? 慶さん、念の為に確認だけどさ。藤原の側近に『深水』って名前の奴は一人しかいないって聞いたけど、それで合ってる?」
 皆が俺に嘘を吐いているとは更々思ってないものの、依頼があれば動くだけで内部の人間ではないし、もしかしたら知らない事があるかもしれない。
 念の為、藤原とは個人的にも親しく、彼の現状に一番詳しい慶に問いかけてみると、麻紀の隣に腰を下ろした彼は、迷う素振りもなく頷き返してくれた。
「そうだね。僕が働いていた頃から深水は一人しかいない。今でもそうだし、絶対に間違いないよ」
「やっぱりそうなんだ……じゃあ、直接の依頼者については深水で確定だな。日本に来たばかりでこの辺りを知らない、まだ事情のよく分かっていない連中を選んで依頼したらしい。そう考えると、深水の個人的な目的で依頼したのかなって感じだけど……」


 深水もこの街で遊んでいる上に台湾マフィアとも親しいらしいと聞いた時、少々気になって散々考えてみたけど、それらしき人物は思い浮かんでこなかった。
 つい最近まで、深水は事件とは無関係だと思い込んでいたから、俺もその時に少し考えてみただけで、彼の存在すら忘れていた。
 彼が真犯人の可能性があると判明後は、皆で各々に客から貰った名刺を見直してみたけど、同じ名前の物は見つからない。
 事件後から見掛けていない常連達や顔見知りの客を思い返してみたものの、やっぱり該当しそうな人物について心当たりのある奴はいなかった。
 この街で唯一、深水の名前と顔が一致している慶さんも、深水の外見的な特徴や沢山の情報を話してくれているものの、俺はどうもいまいちピンと来ないし、周囲の皆も同じらしい。
 とは言うものの、慶の所に顔を出していないだけで、深水が街中を歩いているのは何度も見ていると言っているし、俺達も知ってて当然なヤツなんだろうとは思っている。
 分かってみたら心底驚く、よっぽど意外な人物なんだろうなぁと考えていると、カップを片手に麻紀が静かに立ち上がった。


「とりあえず、深水が依頼者である裏が取れたと、中川にも伝えておこう。翔から聞いた話だけど、明日辺りに『兄貴と連れ立って警備会社に行く』と言っていたらしい。それもついでに確認しておこう」
「僕もそう聞いてた気がするな。もし、明日の午後から警備会社に行くのなら、博人も時間が空いてるから一緒にどうかな? 店長でジェイの店に篭っている中川よりも、あちこちの店に出入りしてる分、顔見知りが多いからさ。深水が事件に関係しているんなら一緒に行った方が良さそうだよね」
「あぁ、確かに。この界隈に出入りしていて、三上が顔を見て分からない奴はいないだろう。深水の立ち寄る店が分かれば、調べたい内容も変わってくる。連れていくと役立つだろうな。それからジェイと一稀にも連絡しておこう」
 慶が淹れてくれた飲み物を片手に、部屋の隅にある少し離れたソファの方に移動した麻紀が、携帯を探りながらそう答えた。


 中川店長の兄が警察に勤めていると聞いた時は、兄弟間で正反対の職種だし仲が悪そうだなと勝手に思い込んでいたのに、予想外に仲が良いと最近になって聞かされ驚いた。
 あんまり興味が無いから詳しい所までは聞いていないものの、マル暴に勤めている兄から台湾マフィアについて教えて貰った……と話してくれた内容は、俺の方がドキリとしてしまう位に、かなり突っ込んだ部分まで情報を入手していた。
 もっとも、中川店長ならそういう事を知っても無闇に口外する人ではないし、それはよく考えてみれば、この街で過ごしている大多数の皆に当てはまる事だと今頃になって気が付いた。
 今回のやり取りを介して、阿公やトミーも皆のスタンスを理解してくれたし、気持ち的な距離は一層近付いたと確信している。
 だから事件が本当に解決し、皆の気持ちが落ち着いてきたら阿公達の事を公表しようと、そう考える様になってきた。




 中川店長は店にいたのか、直ぐに携帯片手に話し始めた麻紀の声を聞きつつ、ホッとした表情で彼の様子を見守っている慶の方に視線を向けた。
「でもさ、もし深水が個人的に頼んだとしたら、ちょっと動機が分からないんだよなぁ。個人的にジェイとトラブルになってる奴がいるとか、そういうのも聞いた事もないしさ」
「確かにね。ジェイが遊び回っていた頃や一稀を恋人にした辺りならともかく、今は二人共、そういう意味では落ち着いてるからトラブルは無いと思う。でも、僕としては何となく動機は予想出来るんだ。多分、間違いないと思ってる」
「え、そうなんだ? 俺は慶さんと反対に、藤原って人が裏で深水を操ってるんじゃないか……とか、そっち方面だと思ってた。やっぱり違うのかなぁ」
「どうだろうね。でも、もう数日中にハッキリしそうだからさ。どっちが当たってるか楽しみだね」
 事件後からずっと続いていた緊張感も解けて、すっかり今まで通りの穏やかな雰囲気に戻った慶が、随分と楽しそうに答えてくれた。


 この辺りは皆の意見も分かれている所だけど、慶はどうやら深水が首謀者でも「驚かない」方の意見で考えているらしい。
 俺はあんまり理解出来ずにいるけど、麻紀さんや中川店長を筆頭に街で地位を築いている人達は、皆、そっちを前提に置いて動いている。
 何より、深水を直接知ってる慶がそういう位だから、やっぱり深水が真犯人なのかなぁ……と、少々自信を無くしつつ考え込んでしまった。
「祐弥は理解出来ない派なんだ。まだ分からないし、犯人だと決めつけない方が良いとか考えてるのかな?」
 真面目に悩んでいる姿が面白かったのか、クスクスと笑いながら慶が小声で問いかけてきた。
「あ、うん。そんな感じかなぁ? もう解決したも同然だし、別に俺が真剣に悩む必要はないんだけどさ。やっぱり、つい色々と考えちゃってさ……」
「それは分かるな。そういえば、一稀も『藤原が真犯人だ』って言い張ってたよ。片方は同性愛者で、もう片方は売り専クラブの出店を狙ってるジェイのライバルだもんね。一稀の場合、何を考えるにしてもジェイが基準だから」
「へぇ、一稀はそう考えてるのか。何か想像出来すぎて笑えるな。ってか、ジェイが怪我したのは事実だし、誰が犯人でもすっげぇ怒りそうだよな」
「差があるとしても、一稀の場合、ほんの少しなんだろうね。むしろ皆の方が違ってくるんじゃないかな。深水が個人的に企んだ事なのと、藤原さんが裏にいるのとでは印象が違ってくる。わだかまりなく和解可能な方なら良いんだけど……」
 ジェイの事件が起きる前から、慶は昔から懇意にしている藤原の件に関しては中立の立場を崩していない。
 客観的に見れば微妙な態度になりそうだけど、普段から本当に気持ちが優しく誰にでも平等な態度で節している慶だから、それが当然って感じで、特に不思議だとは思えなかった。
 こういう雰囲気の街だからこそ、大きな問題が勃発して各々の主張を繰り広げて対立しても、簡単に繋がりが切れる事はない。
 でも今回の事件だけは今までの騒ぎとは全く違う様相を呈していて、事件がどういう決着になるのか、全然予想だに出来なかった。






「中川の方だけど、やっぱり明日、警備会社に行く予定にしてたらしい。間に合って良かった」
 ほとんど独り言に近い小さな声で呟いた麻紀が、携帯をポケットに仕舞いながら立ち上がった。
 ジェイは入院中で暇そうにしてるし、中川店長も何もなければ店にいる時間帯だから、二人とも直ぐに話も伝えられたらしい。
 ホッとした表情を浮かべて隣に腰を下ろしてきた麻紀に向かって、慶が嬉しそうに微笑みかけた。


「直ぐに連絡が付いて良かった。これで一安心って感じだね。博人の事も聞いてくれた?」
「あぁ、一緒に来て欲しいってさ。どっちにしても、三上に声をかけようと思っていたそうだ。ジェイの店に頻繁に通い詰めていなかった場合、深水と思われるヤツの顔を見てもピンと来ない可能性があると、自分でも思っていた様だな」
「店長とかやってると、どうしてもそうなるよね。僕も深水を知ってて街に出入りしている事までは分かってるけど、どのお店に通っていたかまでは断言できないもんね。博人は絶対に分かると思うから、多分、直ぐに判明するんじゃないかな」
「まぁ、これで心配無しだろう。それと明日の午後から、一稀がジェイの店に行って、ボーイが客達と一緒に撮った写真や名刺を持ってくる。俺が迎えに行って連れてくるから、その中に深水が写っているかどうか確認して欲しい。中川の方の情報は外部まで持ち出せない可能性が高いそうだ。俺達はコッチで探した方が効率が良い。他の連中にも、事件後に姿を見せなくなった奴が写っている写真があれば、慶の店まで持ってくる様に頼んでおく」
「なるほど、そういう手段もあるんだね……分かった、僕の方は大丈夫だよ。うちの子達にも他所で誰かと撮った写真があるか聞いてみるね」
 着々と進んでいく二人の打ち合わせを聞きつつ、誰が言い出した話なのか分からないけど、写真を慶に見てもらうのは確かに名案だなぁと、慶と同じく素直に感心してしまった。


 俺達の方と、警備会社に残されている情報――――そのどちらかで確実に、深水が誰だか判明する。
 色々と動き回っていたのは麻紀達だけで、俺は街の皆と阿公達との橋渡しをしただけに過ぎなかったけど、ほんの少しは役に立てたみたいで本当に嬉しく思う。
 元々数の少ない外国人で、おまけに同性愛者の俺だから、存在自体を普通に受け入れて仲良くしてくれる人は残念だけど数少ない。
 その数少ない理解者である両方の人達との仲介が上手くいって、俺個人の問題としてもホッと胸を撫で下ろしていた。
 皆も其々に色んな思いをして此処に集まってきているから、俺達の事を理解出来ない人達に分かって貰おうだなんて、この街の皆は誰一人として思っていない。
 彼等を理解出来ないのは俺だって同じ事だし、不愉快な気持ちになりつつ説明したり……そんな手間をかけてまで分かりあおうだなんて、もう考える事すらなかった。
 プライベートな時間は同胞の皆と遊びに行き、それ以外は同じ好みを持つ人達が集うこの街だけで過ごしていく日々が当たり前になっている。
 意味のない話し合いには俺達自身から背を向けて、無理解な者達を完全に拒絶したコミュニティを形成する事から、俺達の繋がりは始まっていた。




「そろそろ戻るか。慶も長時間、店を空けておくのもマズいだろうからな。続きは明日にしよう」
 時間を確認しつつ呟いた麻紀の声を合図に、三人で立ち上がった。
 此処で皆と事件について語り合うのも、これで終わりになるんだなぁ……と感慨深く周囲を見回していると、チラリと視線を向けてきた麻紀が、軽く口元を緩めた。


「祐弥。台湾人の奴等は同性愛者に偏見が少ないと言っていたけど。それは今でも同じなのか? 今回の事件で祐弥が責められたりとか……そういうのは大丈夫か」
「あ、全然大丈夫。今までと変わりないし、逆に『迷惑をかけてしまった』とか言ってた位だからさ」
「そうか。もし彼等が嫌じゃなければ……だけど、事件が落ち着いたら街に来るようにと伝えてくれ。ジェイが話をしたいそうだ」
「分かった、伝えとく。断られる事は無いとおもうな。ジェイの店に集合?」
「そうなるだろう。慶の店でも良いけど、人数が多くなる様ならジェイの所が無難だろう。食事も美味しいし、普通に楽しめるからな」
 一瞬だけ、阿公の事を口走りそうになったものの、それは何とか我慢出来た。
 いつになく楽しそうに会食の段取りを考えている麻紀の話を聞きつつ、三人でドアの方に向かっていく。
 明日になれば深水の正体が判明して、数日後には事件もようやく解決に向かう。
 その後に台湾マフィアとして阿公とトミーがやってきたら、皆、マジで驚くだろうなぁ……と、早々と緩みそうになる口元を必死になって堪えながら、背後で慶がバタンと音を立ててドアを閉めるのを心地良く聞いていた。






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