Eros act-2 06

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 ほとんど会話らしい話もしていないのに、やけに楽しそうに部屋の中を眺めている一稀の方に、少し酔いの廻ってきた視線を向けた。


「何か面白い物でもあるのか?お前の所と同じだと思うが」
「うーん、そうだなぁ…。とりあえず、女の人が使いそうな物は無いな、って」
「当然だろう。お前、そんなモノを探してたのか…」
 やたらとキョロキョロと部屋の中を眺めている一稀の言葉に、思わず溜息混じりで答えた。
 何を物珍しそうに探しているかと思えば…と脱力してると、オレンジジュースを飲み干した一稀が、満面の笑みを向けてきた。
「中川さんって、彼女はいないんだ?」
「見れば分かるだろう。仕事場はゲイの男ばかりだし、それに休日も不定期だ。女と知り合う機会も無い」
「そうだよな。じゃあ、好きな人もいない?」
 やたらと興味津々な表情を浮かべて問いかけてくる一稀の様子に、これを聞くのが目的なのか?…と考えてみる。
 確かに、そういう事に興味を持つ年頃ではあるし、自分もジェイと付き合う様になったから、周囲の様子も気になっているのかもしれない。ホントに何を考えてるんだか…と内心溜息を吐きながら、ジッと見詰めてくる一稀に頷いた。


「少なくとも、店をやるようになってからは、恋人はいない。今は仕事の方が面白いし、特に彼女が欲しいとも思ってないからな」
「そっかぁ…。んじゃ、自分で抜いてんの?」
 特に躊躇う様子もなく、唐突にそんな事を聞いてきた一稀の言葉に、飲んでいたビールを噴出しそうになった。
 そんな此方の姿に怯む様子もなく、楽しそうに頬を緩め、ジーッと顔を見詰めて返答を待っている一稀の姿に、2本目のビールを空にして大きな溜息を吐いてやった。


「…お前、…。いくら何でも直接的過ぎるだろう。もう少し、言葉を選べ」
「え、そうかな?分かりやすく聞いた方が良いだろ。それよかさ、俺は中川さんが男を抱ける様になった方が早いと思うんだ。そしたら、お店に恋人候補もいるし、自分でするよりずっと気持ち好いしさ」
 そう呟きながら擦り寄ってきて、股間に掌を這わせてきた一稀の姿を、手荒くならない様に注意しながら、やんわりと引き剥がした。
「あぁ、分かった分かった。からかうつもりなら、もう帰れ。大体、お前はジェイの恋人だろう?彼は店のオーナーだし、俺の友人だ。男や女以前に、友人の恋人を抱ける筈がないだろう」
「あ、それなら大丈夫。ジェイにも話してきたし、ちゃんとOK貰ってきたから」


 声色1つ変えずに、そうキッパリと言い切った一稀の言葉に、彼を引き剥がそうとしていた腕が止まった。


「……ジェイに話した…?」
「うん。俺が『男を抱ける様に教えてくる』って言ったら、『金曜日は帰りが遅くなるから、その日にしろ』って。中川さんが男でも大丈夫になったら、すっげぇ喜ぶヤツもいるし。それに、俺もそうなってくれないと困るんだよな」
「…困る、って。一稀には何も関係ないだろう?」
「そんな事ねぇよ。中川さんが男を抱ける様にならないと、ずっとジェイが面接すんだろ?俺、ジェイが他の男とヤルの、本当は嫌だから。全部とは言わないけど、せめて中川さんと半分ずつにして欲しいんだよな」
 そう囁きながら、また股間に掌を伸ばしてきて、頬にキスを落としてきた一稀の姿を、混乱する頭のまま、思わず抵抗なく受け止めてしまった。


 確かに、「他の男と寝てくる」と言い出した恋人を、あっさりと引き止めもせず送り出すなど、他の男ならいざ知らず、ジェイなら大いに有り得る事だとは思う。
 とは言うものの、「恋人が他の男と寝るのが嫌だから、自分がそれを教えてくる」と言って誘惑にくる一稀に、「じゃあ、この日にしろ」と答えるジェイの思考の方向性が、全くもって理解出来ない。
 何で自分の知らない所でそういう方向に話が進んでいるんだ?と、全然意味が分からないし、呆然とされるがままの自分のモノが、服の上から擦ってくる一稀の愛撫にあっさりと反応を示し始めた事も、余計に混乱に拍車をかけた。




「ち、ちょっと待て、一稀!少し落ち着け。俺は、親友の恋人を寝取る趣味はないぞ」
「もう。そんなに深刻に考えなくても大丈夫だって。俺は『お試しの道具』みたいな感じ?中川さんを好きだ、ってヤツは他にいるし、俺もジェイの恋人なんだから。この一回で終わりだからさ」
「だからって、一稀がやる事はないだろう!?他のヤツでも良いんだし…」
「ダメ。今まで他のヤツが一生懸命に誘ってたのに、全然気付いてないのは中川さんの方じゃん。とにかく、一度やってみるだけだから。もし、本当に男がダメなら諦めるからさ」
 そう言い張る一稀がスルリと抱きついてきて、呆気なく唇を奪われた。


 予想外に柔らかな唇の感触と共に、飲み干したばかりのジュースでひんやりとした舌が絡みついてくる。胸の鼓動が伝わってくる一稀の細い身体を無防備に感じた瞬間、胸がドクリと音を立てる。
 侵入してきた彼の舌の動きに気を取られている間、スッと下着の中に入り込んできた一稀の掌に、勃ち上がり始めたモノを直接握られ、腰にブルッと震えが走った。


 自分より華奢で柔らかい、久しぶりに感じる他人の掌の感触に、抗う事の出来ない快感が猛ったモノに伝わってくる。
 コイツは男だ、しかもジェイの恋人じゃねぇか…と、必死になって自分に言い聞かせてみるものの、萎える所かますます硬く勃ち上がってくる自分の昂りに、やたらと気が焦ってしまう。
 もう誤魔化しようのない位に熱を帯び始めたモノを、やたらと嬉しそうに頬を緩めてひと撫でした一稀が、スッと身体から離れて足元に座り込んだ。
「良かった。全然反応してくれなかったら、どうしようかな…?って思ってたんだ」
 そう呟きながら猛ったモノを取り出し、躊躇う事なく咥え込む一稀の口元を、なす術もなく呆然と見詰めていた。




 絶妙な動きで舌を絡め、ねっとりと濃厚な愛撫を重ねてくる一稀の頭に無意識に掌を乗せ、柔らかな髪を指に絡ませ、意に反してその先を促してしまう。
 確かに、最近は独り身が続いていたとは言うものの、それなりに女がいた時期も多かったし、その人数も少ない方ではないと思う。
 それでも、猛ったモノを口に含んで抜き上げている一稀の愛撫は、今まで相手にしたどの女よりも、比較にならない位に的確に欲情を誘ってくる。


 同じ男だからそのポイントは分かっているのか、やたらと淫靡に煽ってくる一稀の姿を息を乱して見詰めながら、そういえばコイツはコレで金を稼いでたんだ…と、ようやくそれを思い出した。








「止めろ…、一稀…」
 先端を舌先で突かれ、限界ギリギリまで追い込まれたのを悟って、思わずそう声を上げた。
 あっさりと身を離した一稀は、ゴソゴソとポケットを漁ると、その先に進むのに必要な物を取り出し、慣れた手付きで準備を始めた。


「…お前…。本気で最後までヤルつもりか…?」
「うん、当然。中川さんは何もしなくていいから、って言っただろ?俺の方は準備してきたから大丈夫。直ぐに出来るからさ」
 恋人以外の男と身体を交えようとしているのに、そんな後ろめたさを微塵も感じさせない声色で、一稀はあっさりと言いきった。
 先程までの淫靡な雰囲気とは全く違う、見慣れた無邪気な笑みを浮かべた一稀が、薄いゴム越しに濡れた掌で、昂りに愛撫を絶え間無く与えてくる。
 その間に下半身に纏っていた物を脱ぎ捨てた彼が、腰を跨いでソファの上に膝立ちになると、ゆっくりと腰を下ろしてきた。




 向き合って抱き合う下腹部に触れる一稀の昂りを目にしてみても、それで我に返る所か、逆に奇妙な劣情を感じてしまう。
 ゆっくりと腰を揺らしながら、微かに息を乱す一稀の少し俯いた色っぽい表情に、彼のナカに埋めたモノがまたビクリと硬度を増した。


 女性の深部とは違う感触ではあるけど、猛ったモノをきつく締め付け、絡みついてくる内襞の心地良さに、冷静な感情が簡単に吹き飛んでしまう。
 もう、どうにでもなれ…と半ば投げ遣りに思いながら、腕の中の華奢な身体を抱き締め、その首筋に唇を這わせた。


 苦いビールも飲めないガキのクセに、やたらと色っぽい表情を浮かべる一稀の身体を、その衝動のまま貪っていく。欲情をそそる甘い声で啼き続ける一稀の姿に、今までに感じた事のない位の、淫らな欲望を感じていた。
 きっと酔ってるからだ…と、そうじゃない事は自分でも分かってるけど、頭の隅で必死になって言い訳を考えている。
 まだ成人にも満たない少年に対し、自分が性欲を感じるなんて、全く予想だにしていなかった。


 親友である男の恋人の裸身に唇を這わせ、その深部に埋めた勃ち上がったモノを、快感に任せて突き上げていく。
 初めて味わう男とのセックスの心地好さに酔いながら、組み敷いたソファの上で甘く乱れる一稀の裸身を、喰い入る様に見詰め続けた。


 普段の子供っぽさとは全く違う、快感に蕩けた表情を浮かべて喘ぐ一稀の姿に腰が疼き、もう堪えきれない欲情を覚える。
 うつ伏せに入れ替えた一稀の細腰を掴み、昂りを激しく打ちつけて、彼の深部にソレを埋めたまま、快感に息を乱しながら猛った欲望を解放した。






「中川さん、ちょっと疲れた?」
「……まぁな。久しぶりだし…」
「あー。確かにそうだろうな。でも、男相手でも気持ち好かっただろ?」
 放出の余韻が残ってぼんやりとしている最中、やたらと嬉しそうに問いかけてきた一稀に、とりあえず無言で頷いてやった。


 呆然としたままの後処理は、疲れた様子もない一稀がテキパキと全部やってくれて、何だかもう、さっぱり意味が分からない。
 想像を超える衝撃の経験にぼんやりしていると、冷蔵庫から勝手にオレンジジュースを注いできて、またゴクゴクと飲んでいた一稀が、ふと時計に視線を向けた瞬間、慌てた様子でまだ少し中身の残るコップを押し付けてきた。


「もうこんな時間かよ!ジェイが帰ってくるから、俺も部屋に帰る」
 弾んだ声で呟きつつ、急いで服を着始めた一稀の姿に、まだぼんやりとしながら視線を向けた。
「帰るって、お前…。その状態で?」
「俺はこのままで良いんだ。続きはジェイとやる、って約束してるからさ」
「何だ、それは…?俺は前戯代わりか?」
 思わず溜息を吐きながら、まだ微妙に勃ち上がったままのモノを、無理矢理下着に押し込んで服を着る一稀の姿を、呆気にとられて眺めてみた。


 何となく一稀に手渡されたコップを持ったまま、目的を達成していそいそと帰り仕度を始めた一稀を、玄関まで見送りに行く。
 「じゃあ、また遊びにくるから!」と、満面の笑みで伝えて帰って行く一稀の後姿を、彼がエレベーターに乗るまでぼんやりと眺めた。






「……もう来なくていい。いや、来るんじゃねぇ!」
 彼の恋人の口調を真似て呟きながら、玄関を閉めてリビングへと向かった。


 自分が飲み干した2本の缶ビールの空き缶を眺めながら、一稀の飲み残したオレンジジュースを飲んで、元いた場所に座ってみた。
 あまりにも怒涛の様に過ぎ去っていった一稀との行為は、本当に今、体験した事実なんだろうか…?と疑いたくなってくる。
 いっそ悪夢であったら良いのに…と思うけど、気怠い疲労感はあるけど妙にスッキリとした腰の辺りと、ゴミ箱の中に捨てられている使用済みの色んな物が、それは夢ではない事を証明していた。


 自分が男相手に性欲を抱いた事も衝撃ではあるけど、それが親友の恋人相手であった事に、本当に頭を抱えたくなってくる。言い出す一稀の考えもよく理解できないけど、それを止めないジェイは、一体、何を考えているんだ?と、真剣に問い詰めたくなってきた。
 それに、今頃になって、行為の前に一稀が口走っていた色んな事が、頭の中に浮かんでくる。それを問い詰めて、上手く話を逸らせば良かったんじゃないか?と、全てが終わった後になって、そんな事を考え始めた。




 いずれにしても、この件に関してはジェイも一役かっているらしい。
 …アイツに係わっていると、本当にロクな目に合わない…と、奔放過ぎるジェイの思考に頭を抱えながら、とりあえず「冷静に考えなければ」と自分に言い聞かせつつ、また浴室にへと向かっていった。






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