Eros act-2 04

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「何の話だ?ティコの恋人の話だろう。一稀が誘いに行くのか?」
「うん。まだ、そうしてみる?って感じだけど。上手くいくかなぁ…」
「自分で誘えば良いだろう。何で一稀が出てくるんだ?」
「ティコが誘ってるんだけど、全然分かってないらしいぜ。それ以前に、中川さんってノンケだから」
「…中川って、アイツの事か?」
「そう。ティコと俺なら、俺の方が女っぽいだろ?だから、とりあえず俺が襲って男を抱ける様に教えて、そっからティコに渡そうか?って話なんだけど。ジェイはどう思う?」


 真剣な面持ちの一稀にいきなり物騒な相談事を持ちかけられ、ジェイは書類を手にしたまま、ソファに並んで座る2人の姿をジッと見詰めた。


「…お前等、そんな話をしてたのか?」
 呆れ顔で問いかけてきたジェイに、ティコは真顔で頷いた。
「最初はな。そっからジェイの事に話が逸れてさ。それで一稀が怒っちまったんだけど…。本題はコッチ」
「まぁ、それはいい。それより、お前…。中川に惚れてんのか?」
「そうだぜ。いっつも誘ってるじゃん。もしかして、ジェイも気付いてなかった?」
「全く気付いてなかった。多分、アイツも気付いてねぇだろうな」
「まじ?何だよ、やっぱ全然ダメじゃん!一稀、ホントに頼むからさ」
 ぎゃあぎゃあと喚きながら一稀に抱きついたティコと、その頭をよしよしと撫でて慰めてる一稀の姿を眺めながら、不意にティコを面接した時の事を思い出した。


 バリタチや、タチネコ両方いけるヤツが過半数を占める店の従業員達の中、ティコは一稀と同じ、男に抱かれる方しかダメなヤツだった。
 やはり気質的に似通った部分があるのか、ティコが休みの日は一稀と2人で買い物に行ったり、食事に出かけたりして、随分と仲が良いらしい。
 そういえば「ずっと一緒に過ごしてくれる恋人が欲しいから、お店で働きたい」と言ってたな…と、時折、以前の一稀と似た表情を浮かべていた、此処に来た当時のティコの姿を思い出した。




「お前、ゲイの恋人が欲しい…と言ってただろう?いつもノンケばかりに惚れてしまって恋人が出来ないから、それでウチに入りたいと、そう聞いた気がするんだが」
「そうだぜ。今でもそう思ってんだけど、やっぱ好きになったのはノンケの店長なんだよな…」
 溜息混じりで答えるティコの言葉を聞きながら、ジェイはしばらく考え込んだ。


「…まぁ、間違いではないだろう。ティコが直接襲うより、一稀が行った方がアイツも油断してるだろうし。身体的にも一稀の方が華奢だからな。抵抗感は少ないんじゃねぇか?」
「やっぱり、ジェイもそう思う?でも俺、ノンケと寝た事ないんだよな。上手く出来るかなぁ?」
「大丈夫だろう。ティコがバリタチで、アイツに突っ込みたい…ってんなら話は別だがな。突っ込む方なら、大して変わらないだろう。案外一度試してみれば、すんなりと受け入れられる気がするが」
「だよな!途中から男相手に変わる人も多いみたいだしさ。それに、売り専の店長だし。やっぱ男相手も出来なきゃダメだよな!」
 どうやらソレを襲う理由にするつもりらしく、随分と楽しそうな表情で話す一稀の姿を横目に、また書類を片手に持ち直した。




 身長は同程度の一稀とティコだけど、やはり全体的に一稀の方が華奢で小作りな分、違和感は少ないかもしれない。こんな話になってるとは、アイツは全く気付いてないだろうな…と、知らないうちに標的にされてしまっている、堅物の友人の顔を思い浮かべた。


 もっとも、一稀にも話した通り、案外大丈夫だろうな…と、そんな気がする。
 「俺は男にしか欲情しないゲイだ」と話した時も、中川は「そういうヤツもいるだろうな」と平然としていたし、この店の事を持ちかけた時も、彼は風俗店だという事に迷っていただけで、それが同性愛者相手である事は、あまり気にしてない様だった。
 本当に嫌悪感を持っているなら、これだけゲイに囲まれた中で平然と仕事など出来ないだろうし、少なくとも「店の運営が楽しい」などとは考えられないと思う。
 一稀には話さなかったけど、以前から、中川は本人が気付いていないだけで、本当は男でも女でもいけるタイプのヤツなんじゃねぇか…?と、秘かにそう考えていた。


 それに自分の恋人になった一稀の気持ちを考えると、やはり、今までのやり方から少し変えた方が良い様に思う。仲の良いティコの恋路を応援するのも本心だろうけど、それ以上に、自分の為でもあるんだろうな…と、こんな事を言い出した彼の胸の内を推し測った。
 一稀なりに色々考えての事だろうし、中川の反応を見たい気もするから、今回はあえて静観しようと思う。
 …それにしても物騒な事を考えるもんだな…と、ソファに並んで座り、楽しそうに中川襲撃計画を立てる一稀とティコの声を聞きながら、のんびりと店の書類に目を通していった。






*****






「…でさ、中川さんってどういう雰囲気が好きか?とかさ。ジェイは知ってる?」
 ジェイの下肢に貼り付いたまま問いかけると、彼は深々と溜息を吐いた。
「知らねぇよ、そんなモン。深く考える問題でもねぇだろうが」
「そうだけどさ。ジェイは面接でノンケと寝たりしてるけど、俺、ゲイのヤツとしか寝た事ないから」
「大して違いはねぇよ。勃たせて自分のナカに突っ込んじまえば終わりだ」
 ベッドに仰向けに寝転んだまま、素っ気なく答えてくれたジェイの方を見上げて、また少し考え込む。
「分かってるけどさ…。でも、最初に失敗したら終わりだろ?」
「その時はその時だ。大体、アイツに惚れてるのはティコだろうが。いつまで他の男の話をするつもりだ?」
「……ジェイって、そういうトコは鈍感だよな。コッチは、すっげぇ敏感なのにさ」
 顔の前で握りこんでいた彼の昂りを、左手の指先で突きながらボヤいてみると、ジェイがパシッと頭を叩いてきた。
「あぁ?いつまでもバカな事、言ってんじゃねぇよ。やるんなら、サッサとやりやがれ。それとも交代するのか?」
「もう。ジェイってホントに短気だよな…。今日は俺がする、って言ってるのに」
 とりあえずブツブツと文句を言いつつ、掌で握っている彼の猛ったモノを咥え込んだ。




 口腔の奥深くに咥えて舌をゆっくりと絡ませると、またジェイのモノが少し形を変え、手の中で硬く勃ち上がってくる。
 自分の与える愛撫に即座に反応を示してくる、ジェイの身体を愛しく思う。
 これだけが全てじゃないけど、やっぱり、彼と素肌を合わせる行為は、他の誰かとする事より、全然違った意味を持っていた。
 それは自分にとってすごく大切な事で、少しの時間でも、彼を独占していたいと思っている。
 快感に猛ったジェイのモノを、もうあんまり他のヤツには触れさせたくなかった。


 やっぱり好きな人と一緒に暮らすのは、とても楽しくて幸せだと思う。
 だから、入店した頃から「恋人が出来たら辞める」と言い続けているのに、未だにお店にいるティコの片思いを何とかしてあげたいな…って言うのも本音だけど、ジェイを少しでも独占したい自分の気持ちも、ほんのちょっぴりだけど混ざっている。
 本気で彼の事を思っているティコと、ジェイを独占したい自分の為にも、何とかして中川にも「男を抱ける」様になってもらう必要があった。




 少し息が荒くなり始めたジェイの昂りに舌を絡ませ抜き上げていると、顎の辺りをジェイが指先で触れてきた。
 それが合図だ…ってもう分かっているから、彼の猛った部分を放して上に上がると、今度は口の中にジェイの舌が滑り込んできた。


「来週の金曜日、少し帰宅が遅くなる。パーティとやらがあるからな」
 唐突にそんな事を話し始めたジェイの腕に抱かれたまま、少し首を傾げて彼を見上げた。
「そうなんだ?じゃあ、お店にも来ないんだ」
「そうだな。俺が家に戻って来るのは深夜になるから、その日にすればいい」
 何を「その日に…」なのかは、聞かなくても分かってしまって、思わずクスクスと笑ってしまった。


「じゃあ、そうしようかな。外泊はしないから」
「当然だ。翌日は休みにしよう。時間に余裕があるからな」
「分かってる。ジェイは特別だしさ、全然違うから大丈夫」
 ククッ…と笑いながら答えてやると、ジェイも楽しそうに頬を緩め、頬に軽くキスを落としてくれた。




 大好きなジェイが自分のナカに押入ってくる瞬間を思うだけで、彼の下腹部に触れている自分のモノが、期待の蜜を零し始める。
 抱き締められた腕の中で何度も彼とキスを交わしながら、濡れた指を滑り込ませてきたジェイの愛撫に、甘い啼き声を上げ続けていた。






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