Eros act-2 12

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 まだ落ち着かない様子のティコと珈琲を飲みながら、一稀の状態を詳しく説明していく。
 きちんと病院で手当を受けて、医師からも「もう大丈夫だ」と、そう言われた事を教えてやると、ようやくティコも安心した様子で、微かに頷いてくれた。
 とは言え、直前まで一稀と一緒にいたティコは、「自分がマンションまで送っていれば……」と、そう考え続けるだろうなと、簡単に予想出来る。
 とりあえず、今日は此処に泊まらせる事にしたティコをバスルームに押し込むと、またリビングのソファに座ったまま、漠然と色んな事を考え続けた。




 ティコと入れ替わって風呂に入り、リビングに戻ってくると、ソファ座ったままのティコが携帯を手に、何やら真剣に考え込んでいた。


「どうした? まだ連絡を入れる奴が残っているのか?」
「ううん。一稀に謝んなきゃ……と思って、色々と考えてるんだけど。何か『ゴメンな』とか、そんなのしか思い浮かばなくてさ」
「別にお前が謝る必要はない。ティコのせいじゃないからな。まぁ、『そのうち見舞いに行く』とでも入れておけば良い。アイツは病院で大人しく寝てるタイプじゃないからな。暇潰しのメールの相手をしてやれば、その方が喜ぶんじゃないか?」
「そうだな……やっぱメールなんかより、そういうのは直接言った方が良いよな」
「一稀は全く気にしてないとは思うが。お前がそれで気が済むんなら、直接言った方が良いだろうな。それと、必要な物があれば連絡しろ、と入れておいてくれ」
「ん、分かった。ソレにしとく。後は一稀の返事来てから考える」
 ようやく微かな笑みを浮かべたティコが、また携帯に視線を戻した。


 今は電源が切ってある一稀の携帯にメールを打つティコの姿を眺めながら、ふと、彼を部屋に呼んだのは初めてである事に気付いた。
 貸してやった、彼には少し大きめのパジャマを着たティコの姿を、向かいのソファに腰を下ろしたまま、ぼんやりと眺める。
 一稀とそう変わらない華奢な体躯を見詰めながら、それでも随分と印象が違うもんだな……と、そんな事を考えてみた。
 きっと他の皆には、一稀の方が若干細いなとか、その程度の違いだと思う。全然違うと思ってしまうのは、自分が彼に抱いている感情のせいだと、そう今ではハッキリと自覚していた。


 何となくそのタイミングが無かっただけで、もうずっと前から自分の気持ちは決まっている。
 まぁ、これも良い切っ掛けだなと思いながら、幾重かに折られた袖口から覗くティコの細い手首を、じっと無言で見詰めていた。






 ようやく普段の雰囲気に近付いてきたティコを連れて、寝室に向かった。
 隣の部屋にはジェイが使っていたベッドが余っているけど、そこにティコを1人で寝かせるつもりは、全くなかった。




 先に彼をベッドに押し込み、その後に続いて潜り込む。
 やけに緊張の面持ちで横たわっているティコの手を掴んで抱き寄せると、ククッと笑いながら、軽く背中を叩いてやった。


「ティコ、緊張し過ぎだ。もう少し落ち着け」
「え、だって……緊張するな、って方がムリだと思う。同じベッドで寝てるのに」
「まぁな。でも俺は、この方が自然だと思う」
 頬を染め身を強張らせたまま答える彼の耳元でそう囁き、いつになく間近にある彼の唇に、そっと顔を寄せていく。
 二人で遊びに出かけた時、夜の闇に紛れて軽いキスを交わした事は何度かあった。それでも、こうして静かな二人きりの場所でキスをするのは初めてだと思う。
 触れるだけのキスを繰り返すうちに、徐々に身体の強張りが解けてきた彼の身体を組み敷き、指を絡めてギュッと掌を握り締めながら深いキスに変えていった。


 絡み合う舌の感触と、直接伝わって来るティコの早い胸の鼓動に、一気に欲情が高まっていく。
 本当に時間をかけてゆっくりと、彼と愛情を深めてきたけど、いつまでもそれで満足出来る程、もうお互いに子供じゃなかった。




「ティコ、そう気にするな。一稀なら大丈夫だ」
 何処となく落ち着かない様子を見せる彼のパジャマのボタンに手をかけ、晒される素肌を見詰めながらそう告げると、ティコが大きく溜息を吐いた。
「ん、分かってるけど。でも、アイツは今、怪我して入院してんだよな……とか考えてさ……」
「それはティコが悪い訳でもないし、一稀の様子はジェイが見ている。何も心配いらない……それに、お前も一稀に色々言われてただろう。いつまでお友達なんだ? とか」
「……え? アイツ、もしかして店長にも同じ事を言ってた?」
「いや。俺には、直接は言ってきてない。ジェイにそう愚痴ってたらしいな。お蔭で俺は、ジェイに散々嫌味を言われた。アイツ等、2人揃って口が悪いからな」


 彼の身体を覆っていた服を剥ぎ取り、自分も服を脱ぎながらそう教えてやると、自分の額に手を当てたティコが、呆れた様子で笑みを浮かべ、また溜息を一つ吐いた。


「……まじ? ホント、あの二人は色々と引っ掻き回すのが好きだよな……」
「そうだな。だから気にしなくて大丈夫だ。見舞いに行った時に『少し先に進んだ』って教えてやれば、アイツも喜ぶだろう」
「分かった。そうするかな……その方が、一稀もきっと安心だと思う。すっげぇ心配してくれてたから」
 見慣れた穏やかな笑みを浮かべて、素直に頷いてくれたティコに覆い被さり、また深くキスを交わしていく。
 遮る物の無くなった裸身を晒し、背中に腕を廻して抱きついてくる彼の素肌に掌を滑らせながら、一稀を抱いた時とは全く違う情欲を感じた。
 火照ってきた身体を捩らせ、甘い啼き声をあげるティコの素肌を貪り、硬く猛ってきた彼の昂りを握り込んで、抜き上げていく。
 一稀が相手の時には全く思い浮かばなかった愛撫を無意識にやっている自分自身に驚きながら、それに身体をブルッと震わせ、甘く喘いで反応を示すティコの姿に、また深く舌を絡ませ、柔らかな唇を貪った。




 何もかもを捧げて互いの姿を求める、ジェイと一稀の愛欲に当てられてしまったのかもしれない。
 あの二人みたいに激しい恋は出来ないけど、ティコと一緒に自分達なりの、穏やかな愛情を紡いで行けたら良い……と、彼の素肌に愛撫を捧げながら、そう思った。




 彼の昂りから零れた蜜で濡れる指先を、そっと繋がる部分に差し入れ、ゆっくりと解していく。
 うっとりと眸を閉じたまま、ゆったりと腰を揺らす彼の仕草に喉を鳴らしながら、上気した頬にキスを落とした。
「……大丈夫か? 辛い様なら、コッチは止めておくが」
「平気。お店でやるのとは全然違うし……それに、俺も最後までしたいから」
「そうか。痛む様なら言えよ、途中でも止めるから。……その前に、俺はあまり持ちそうにないけどな」
 店で幾人かを受け入れ、きっと今日は疲れている筈のティコに冗談めかして告げながら、もう弾けそうに昂っているモノを押し当て、ゆっくりと彼の深部に押入っていく。
 甘く蠢き締め付けてくる内襞の心地好さに、途中で何度か達しそうになるのを堪えながら、少しずつ、彼との繋がりを深めていった。


 眦に涙を滲ませ、ギュッとシーツを握り締めて喘ぐティコの猛ったモノから、また透明な蜜が伝い落ちる。
 全身で感じてくれる彼の姿を、心の底から愛おしく思いながら、全てを埋めたティコにまた覆い被さり、きつく抱き合ってキスを交わした。




「ティコ、明日から店には出なくていい。一稀の代わりに、裏方の仕事に廻ってくれ」
 抱き合ったままそう告げると、ティコは素直に頷いてくれた。
「うん、分かった。一稀、結構働き者だから。意外と沢山仕事してんだよな……」
「そうだな。俺も少し多いだろうなと思っている。だから一稀が戻ってきた後は、二人で分担してやればいい」
 ゆっくりと髪を撫でながら、そう穏やかに話してみると、ティコは大きく目を瞠った。
 一気に潤んでいく彼の目元に指を滑らせながら、口元を緩めて、髪をかき上げた額に軽くキスを落とした。
「ばか、泣くな。俺が照れる」
「だって、いきなりだからさ……しかも、こんな時に」
「こんな時だから、だろう? お前、1人暮らしだったな。合間を見て、此処に引越して来い。隣の部屋が空いている。まだジェイの荷物が残っているから、それも少しずつ、アイツ等の家に運ぼう」
 妙に気恥ずかしくて顔も見れずに、ティコの肩口に顔を埋めたまま提案すると、彼がしっかりと頷いてくれたのが分かった。
 ようやく顔を上げて彼の方に視線を向けると、泣き笑いの表情を浮かべるティコとキスを交わして、またしっかりと抱き合った。




 彼は本当に心の穏やかなヤツだし、一緒にいて楽しいと思えるから、自分達はずっと上手くやっていけると思う。彼と暮らす日々は本当に楽しいだろうな……と、それだけはもう確信していた。
 甘く啼き続けるティコの深部を突き上げながら、互いの姿を貪り、快感を求め合う。バカみたいに胸がドキドキして、初めて身体を繋げた子供みたいに焦っていたけど、それは彼も同じだった。


 2人共、少し不器用な所があるから時間がかかってしまったけど、もう離れる事はないと思う。
 快感に達し、荒い吐息を乱しながらも、まだ互いの身体を抱き締めたまま、暖かいベッドの中でいつまでもその余韻を味わっていた。






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