Milky way 02

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「ジェイ、間取り図が載ってる。こういう所が良いな」
 食事を終えて駐車場まで戻る途中、弾んだ声をあげた一稀に腕を引っ張られ、足を止めてその視線の先を覗き込んだ。


「なるほど、広さも丁度良さそうだな。だが、少し場所が悪いな…」
「あ、確かに…。店に通うには不便かも。ジェイは車があるから良いけど、俺1人だと電車だもんな。乗り継ぎには不便な所かも」
「そうだな。一稀、こういうのも良いんじゃねぇか。バスルームも広い」
「あ、それ考えるの忘れてた。今のトコ、ジェイはホントに狭そうにしてるもんな。よくぶつかってるし」
「まぁな。『狭そうにしてる』じゃなくて、本当に狭いだろう。2人で入れる位の余裕は欲しい所だ」


 一稀の肩に廻していた腕を下ろし、少し離れた所に貼られている間取り図を見ようと彼から身体を離した瞬間、不意に指を絡め取られた。
 手を繋いできたのに、呼びかけてくる一稀の声は聞こえてこない。他に良い部屋でもあったのか…?と、一稀の方に視線を向けると、彼は反対方向の間取り図を覗き込んでいた。


 こちらに背を向け、まるで無関心で自分の気になる広告を見詰めているのに、それでも、伸ばした手を離そうとしない一稀の姿を、暫くの間、無言で見詰める。
 薄暗い街角に建つ閉店後の不動産屋の広告を、ブツブツと呟きながら真剣な様子で見入っている彼の姿に、絡んだ指先を握り直して、その隣にへと歩み寄った。




「ジェイ、向こうに良さそうなのあった?」
 無邪気な笑顔で問いかけてきた一稀に、口元を緩めて笑い返した。
「いや、似たり寄ったりって感じだ。まぁ、これは参考程度だろうな。明日にでもちゃんと探しに行こう」
「そうだな。この付近のしか載ってないし、場所もあるかもな。…ってかさ、部屋借りるのって、すっごいお金かかるんだな…。今のトコだって、きっと家賃高いんだよな?」


 まるで、欲しいおもちゃが予想外に高額で困っている子供の様な戸惑った表情を浮かべ、ボソボソと小声で問いかけてきた一稀の姿に、抑えきれない衝動を感じる。
 彼と繋いだままの手を上げ、また肩ごと抱き寄せて腕の中に一稀の身体を収めると、目前にきた柔らかな髪に唇を落とした。


「お前はそんな事を気にするんじゃねぇよ。何も心配しなくて良い」
「そうかもしんないけど…。でも、ちょっと贅沢なのかなって気がしてさ」
「お前が強請ってる訳じゃねぇ。俺が好きでやってる事だ。それに、俺は贅沢だとは思っていない。俺とお前が心地好く暮らせる場所を探しているだけだ」
 そう答えてやると、振り向いてきた一稀が柔らかな笑顔で頷いてくれた。




 大きなスポーツバッグに服やゲームを詰め込んで、それを何度か往復しただけで「これで荷物は全部」と言いきった一稀は、本当に物欲を持っていない。コイツが欲しがる物なら何でも買ってやる…と、そんな無粋な事まで考えていたのに、彼は金で簡単に手に入る物など、何一つ欲しがろうとはしなかった。


 ある意味、一稀は本当に贅沢なヤツなのかもしれない。
 紛い物をあっさりと見過ごし、自分が気に入ったものだけを大事に抱え込む彼の中に、自分は一体どれほど入り込めたんだろう…と、今はそればかりが気になっている。
 華奢な身体のクソ生意気なガキのクセに…と毒づいてみても、そんな彼はいつの間にか、自分の中に在って当然の大切な存在になっていた。




 鮮やかな彩を放つ街の片隅で寄り添ったまま、新しい家の間取りをコソコソと話しながら時間を過ごす。
 近付いては直ぐに遠ざかって行く雑踏を背中で感じながら、誰も知らない2人だけの会話が、本当に楽しくてしょうがなかった。


 時折振り返って穏やかな視線を向けてくる一稀の顔を見詰めながら、彼がこんな表情を向けてくれるのは初めてだな…と、そんな感慨に浸ってしまう。ようやく分かり合えた充足感を味わいながら、ざわめく人の渦に背を向け、愛しい姿を独占する時を心地好く過ごしていった。
 部屋に帰ればいくらでも静かに話せるのは分かっているけど、今は喧騒の中で彼を抱き締めていたいと思う。
 昨日までより少しだけ饒舌になった一稀を腕の中に抱えたまま、2人だけの新しい生活について、夜の闇に紛れながら飽きる事なく語り合っていた。






*****






 縺れ合って倒れ込んだベッドの中、軽いキスを交わした後、一稀はちょっと恥ずかしそうに微笑みながら顔を伏せた。
 初めて見る彼の仕草に一気に欲情が高まってくる。横向きに抱き合ったまま深く舌を絡ませながら、彼の服にへと指を伸ばした。
 一稀の服を剥ぎ取っていく事を、結構楽しみながらやっている。何処か頑なな所のあった彼の気持ちを、この服と同じ様に脱ぎ捨てていけたら…と、今まではそう思っていた。


 少しずつ乱れていく吐息と共に、触れ合った素肌から彼の鼓動が伝わってくる。
 腕を廻して抱きついてくる一稀の素肌を晒しきって、その身体を組み敷いて激しく唇を貪っていった。


 キスだけで硬く猛ってきた彼のモノに、同じ様に昂った自分のモノを押し付けると、キスを交わしていた一稀の身体がフルッと震えた。
 伸びてきた一稀の掌が、勃ち上がった部分をやんわりと包み込んでくる。
 キスを交わしながらその部分を弄っていた一稀が、唇を離した瞬間、熱の篭る潤んだ眸で視線を下げる。そのまま身体をずらし、掌で包んでいた部分を舌でペロリと舐めはじめた一稀の口元をジッと見詰めた。




「どうした?随分と積極的じゃねぇか」
 軽い口調でそう問いかけると、昂ったモノを口に含んだ一稀がジロリと上目遣いで睨んできた。そのまま答えを返す事なく、ツンと澄ました表情を浮かべてまた昂りを抜き上げ始めた一稀の頭を、ククッ…と笑いながら撫でてやった。


 下肢に貼り付き舌を絡めてくる彼の仕草に、また昂りがビクリと動く。それさえも愛おしそうに、猛ったモノから滲んでくる蜜を舐め取る一稀の細い下半身を、目の前に引き寄せた。
 素直に可愛く勃ち上がった部分を寄せてきた一稀の下肢を横抱きにして、互いのモノに唇を寄せ、激しい愛撫を与えていく。
 甘い啼き声を洩らしながら、それでも愛撫の手を止めようとしない一稀の姿に、逆にこちらが煽られてしまう。尚も欲を駆り立てようと、猛ったモノを咥え込む彼に下肢の愛撫を任せたまま、いつになく攻めてくる彼の裸身を掌で辿り、唇を這わせていった。




 押入った一稀の内部は、もう充分に蕩けていた。先を促すかの様に蠢く深部にゆっくりと猛ったモノを埋めると、甘い吐息で待ち侘びていた一稀の頬に、軽くキスを落としてやった。
 腕を伸ばしてきた彼に抱き寄せられ、その身体に覆い被さる。
 彼に強請られるまま、何度も軽いキスを繰り返して、何だか泣き出しそうに顔を歪める一稀の頬に、また軽く唇を寄せた。


「ジェイ…大好き。すっげぇ好き。上手く言えないけど…俺、ホントに好きだから」
「あぁ、分かってる。心配するな。俺も大好きだから、お前と同じだ」
 真っ直ぐな視線を向けてきて、もどかしそうに言い募る一稀の耳元に、彼と同じ言葉を囁き返す。ぎゅっと力任せに抱きついてくる一稀の姿に頬を緩めながら、身体を繋げる彼が満足してくれるまで、同じ言葉を何度も何度も紡いでいった。


 少し意地っ張りで口下手な一稀が伝えてくれた精一杯の愛の言葉を、今は素直に嬉しく思う。
 言葉よりも何倍も雄弁な一稀の身体を抱きかかえ、向かい合わせに座わらせると、本当に穏やかな気持ちでゆったりと抱き合った。


 埋めたモノをぎゅっと締め付け、うっとりと眸を閉じて肩口に頬を埋める彼の髪を、ゆっくりと撫でていく。ジッと大人しくされるがままで、気持ち好さそうに目を閉じたままの一稀の肌にも、ゆっくりと掌を滑らせた。
 昂った情欲を性急に満たす事より、今は穏やかに2人が繋がってる行為を感じる事の方が、何倍も心地好く感じる。何度も繰り返しキスを重ね、互いの肌を掌で辿って、身体の一部を絡ませたまま穏やかに愛撫を重ねていった。




 初めて抱き合った頃より、一稀は随分と艶っぽい色気を感じる様になった。
 艶かしい姿に昂る彼の中に埋めたモノを、その欲に誘われ、緩やかに動かし始める。それに応えてゆったりと腰を揺らす一稀の身体を抱き寄せ、猛った彼のモノを互いの下腹部で挟み込んだ。


 蕩けきって絡みつく一稀の深部に息を荒げ、その快感を貪っていく。
 甘く啼き続ける一稀の内襞が深く突き上げる昂りに絡みつく度に、彼の猛ったモノがビクリと震え、甘い蜜をトロリと零した。
 鼻にかかった可愛い啼き声を上げた一稀が、淫らな水音を立てる昂りを下腹部に擦り付け、解放を強請ってきた。腰を抱き寄せ深く下肢を交えながら、彼の耳元にそっと囁きかけると、頷いた彼の眦から涙が一粒流れ落ちていった。


 何となく終わらせるのが勿体無くて、時々動きを止めて欲を放つのを抑えていたけど、もうそろそろ2人共、絶頂を迎えそうになってきた。
 息を乱す一稀の頭を肩口に抱え込んだまま、激しく深部を穿っていく。
 淫靡に腰を揺らす彼の身体を抱き締めながら、あとはもう情欲の赴くままに、互いの身体を貪っていった。




「……あっ…、ジェイ……」


 小声で名前を呼んだ一稀がブルッと身体を震わせ、限界まで猛ったモノから甘い蜜を吐き出していく。可愛く震える華奢な身体を抱き締めながら、弾けた一稀の蜜で濡れた下腹部を重ね、激しく唇を貪った。
 達した一稀の深部が甘く絡みついて、埋めた昂りに同じ絶頂を誘ってくる。
 ぐったりと力の抜けた華奢な身体を二、三度激しく突き上げ、熱く蠢く彼の深部に欲望を放っていった。






 軽く身体をシャワーで流し、またベッドに戻って裸のまま抱き合った。
 重ねる肌の温もりが心地好くて、素足を絡め、時々キスを交わしながら、眠るまでの穏やかな時間を過ごしていく。


 しばらく新しい家の事を楽しそうに話していた一稀の口数が少なくなってきて、その交わりに穏やかな寝息が聞こえてきた。細い背中を擦って穏やかな眠りを促してやりながら、無邪気な一稀の寝顔を見て、ふと、昨夜の事を思い出した。
 こんなに華奢な身体の彼がいなかっただけなのに、一人きりのベッドは本当に広く感じた。
 もう、あんな気分は味わいたくないものだ…と自嘲しながら、ぼんやりと昨夜と同じ様に部屋の壁に視線を向けた。




「………ジェイ、……」


 小声で名前を呼ばれ、腕の中で微睡む一稀に視線を向けた。
 確かに彼から名を呼ばれたはずなのに、全く目覚めた気配もなく、くうくうと穏やかに眠り続けている一稀の姿に思わず笑いが込み上げてくる。
 「呑気な顔しやがって…」と穏やかな笑いを混ぜた声で呟きながら、その頬にキスを落とした。


 寝言で名前を呼んだ一稀の夢の中で、自分は一体、何を話しているんだろうな?と考えてみる。
 せめて今日見る夢の中くらいは、彼に優しい言葉でも囁いてれば良いんだが…と気に病みながら、柔らかな髪に頬を埋めた。


 そんな柄じゃねぇから…と鼻で笑って、強引な愛情表現に戸惑っていた一稀に甘い言葉の一つもかけてやれなかった我侭な自分は、彼以上に子供なのかもしれない。
 せめて夢に微睡む間際の、こんな静かな時間だけでも、彼に本音を話してみるのも悪くないな…と、少しの照れを隠しながら考えてみた。


 心の底まで溺れたヤツの温もりがあるだけで、こんなに気分が穏やかになるなんて、そう初めて知った気がする。
 こんな時間が少しでも長く続いていく様に…と、ささやかな夢を願いながら、抱き締めた愛しい姿が待ち受けている夢の中にへと、ゆっくりと落ちて行った。






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