Eros act-2 21

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 夕食時になり、ジェイが父の病室に電話をかけて相談した結果、院内にある料理屋に行く事になった。
 ジェイのお父さんとの食事は楽しみだから、それは良いけど「そのまま、着替えなくていい」ってジェイに言われて、少しだけ不安になってきた。
「ジェイ、ホントにパジャマのままで良いのかなぁ? 怒られない?」
「大丈夫だ。此処は病院だぞ、着飾っても意味がねぇだろう」
「でも、前にチラッと覗いた時、スーツ着た人が入口で待ってたからさ」
「それは見舞い客だろう。親父もパジャマで来るし、中は個室だからな。他の入院客などと一緒になる事はない。心配するな」
 そう言いながら手を握ってきたジェイに促されるまま、ベッドから降りて立ち上がった。


 病室内くらいなら平気だけど、膝の横を蹴られた打撲が酷かったから、長い距離を歩くとまだ少しだけ痛みがあって、普段よりゆっくりとしたペースになってしまう。
 確かに病院内の施設だけど、ホントにこの格好で大丈夫なのかな……って不安に思いながら、転ばない様にジェイに手をひかれたまま、料理屋にへと向かって行った。




 途中で合流したジェイの父も、午前中に見たパジャマ姿だったから、ようやく少し安心してきた。
 ジェイが教えてくれた通り、完全に個室になっている座敷の部屋に通されると、案内してくれた人が「足は曲げたままでも大丈夫か?」って聞いてきた。
 特に問題はないけど、何でだろう? って不思議に思って聞いてみると、掘り炬燵風になっているから、足を曲げたら痛い人の為に、足を置く台みたいなのもちゃんと準備してあるらしい。
 そういう所は病院の中って感じだな、と感心しながら、料理を頼む二人の様子を楽しく眺めた。


 ジェイと二人で食事に行くと、やっぱり洋食の物が多くなるから、こういう和風の料理を外で食べるのは初めてかもしれない。ジェイの父も一緒に、三人で和やかに食事が進んでいく。
 日本で生まれ育った自分よりも器用に箸を使うジェイの姿を眺めながら、本当にジェイは何でも出来るな……って、改めて感心した。
 以前からそう思ってはいたけど、彼の昔の話を聞いた後だから、余計にそんな事を考えてしまう。
 そして、「ジェイって凄いよな」って考える度に、少しだけ不安になってくる。
 ジェイは外見もカッコ良くて頭も良いのに、何で俺と付き合ってるのかな? って不思議に思う。俺なんか高校にも行ってなくて、周りの皆と比べてもバカだと思うし、中学の勉強だって、お世辞にも出来ていたとは絶対に言えない。
 本当に何の取り柄も無いと思うんだけど、ジェイは俺といて楽しいのかなぁ? とか考えていると、向かいに座っている彼のお父さんが、首を傾げて顔を覗き込んできた。




「一稀。どうした、疲れたのか? やっぱり、病室に運んで貰った方が良かったか」
「あ、大丈夫。あんまり沢山話す方じゃないから、いつもこんな感じなんだ」
 お父さんにそう答えながら、ジェイの方に視線を向けると、彼も笑いながら頷いてくれた。
「確かに。一稀は一方的にベラベラ喋る方じゃねぇな。大人しいって訳でもないが、どちらかと言えば、口数は少ない方だろう」
「皆からも『もっと沢山話せ』って言われる。お店の手伝いで料理運ぶ時も、お客さんに話しかけられたら返事はするけど、その後、何を話せば良いのか分かんなくてさ……もっと自分から話せる様になった方が良いよな」
「今のままで良いんじゃねぇか。その方が一稀らしいし、接客がメインの仕事じゃない。話が長くなる様なら、他のヤツと変わって貰えば良いだろう」
「ホント? ジェイがそう言うんなら良いけど。一応、色んな事を覚えなきゃとか思って、雑誌くらいは読む様にしてるんだけど。あんまり役に立ってないかも」


 最近の悩みをご飯を食べつつジェイに打ち明けていると、向かいで聞いている彼の父が、楽しそうに頬を緩めた。
「一稀、店の仕事は楽しいのか? かなり頑張っていると聞いているが」
「あんまり皆の役に立ってないけど思うけど、俺は楽しい。厨房の手伝いが一番面白いかな」
「厨房か? 一稀は、料理を作るのが好きなのか」
「料理人の皆みたいに手早くは出来ないけど、手伝うのは楽しいな。お父さんが家に遊びに来たら、俺がご飯作ってあげるから。退院して、またお店に行く様になったら、色々覚えとく」
 そう答えてみると、ジェイの父はまた楽しそうに口元を緩めた。
「そうか、それは楽しみだ。是非、遊びに行かせて貰おう」
「いつでも大丈夫。でも俺って、何かしてると本当に話出来ないんだよな……ジェイがいる時じゃないと、ちょっとシンとするかも」
 何だか嬉しそうな彼の父にそう告げながら、またジェイの方に視線を向けて同意を求めた。
 それに応えて、また話し始めた二人の様子を眺めながら、ちょっと満足してご飯にへと手を伸ばした。


 誰かと話をするのは嫌いじゃないし、それを避けてるつもりもないけど、こういう場では皆の話を聞いてる方が楽しいし、特にジェイと父の会話は聞いてるだけでも面白い。
 少しだけ、その話に入りたいなって気もするけど、今は逆に気を使わせてしまうだけだと思うから、聞いてるだけで満足している。
 お店でも一番年下だから、今はそれで良いと思う。
 でも、そのうち絶対に俺より年下の子が入ってくる様になってくるんだから、それまでにもっとしっかりしなきゃ……って、内心焦っていた。
 小さい頃から一人で遊んでるのが好きだったし、学校も中学までしか行ってないから、お店の皆と会うまでは本当に一人きりで過ごしている事が多かった。だから、沢山話をするのがちょっと苦手で、きっと口下手な方だと自分でも分かっている。
 でも一応『副店長』だから、もう少しは何とかしたいし、いつまでもこんな言い訳をしてたらダメだ、って分かっている。
 皆より随分と遅れてしまったから、いきなりは無理だけど、こういう所も直していきたい。
 俺も話に入っていける様になりたいな……と思いながら、和やかな雰囲気で話を続けるジェイと父の話に、静かに耳を傾けていた。






*****






 部屋に戻って落ち着いた頃、ジェイと「もう怪我も良くなってきたし、大丈夫かな?」って話になって、一緒にお風呂に入る事にした。
 髪は洗面台を使ってジェイが洗ってくれていたし、軽くシャワーを浴びたりはしていたけど、ちゃんと入るのは久しぶりだから嬉しくなってくる。
 ジェイに手伝って貰って服を脱いで、ギプスが濡れない様にカバーをして、自分も服を脱いだジェイと一緒にバスルームに入っていった。




 片手しか使えないから、今日もジェイが髪を洗ってくれた。
 何だかやけに楽しくてゲラゲラと笑いながら髪を洗って貰って、今度はボディソープをたっぷりと泡立てたタオルで、ジェイが身体を洗ってくれた。
 まだ完全に擦り傷が治ってない部分もあるから、ゴシゴシ洗うのは無理だけど、やっぱり凄く気持ち良い。
 撫でる様に身体を滑っていくジェイの掌の感触も久しぶりで、それを実感しているうちに、何だか違う意味でも気持ち好くなってきた。


「やっぱり、こうなったか」
「だって……当然だろ? ジェイがあちこち触ってくるからさ……」
 背後から掌を伸ばしてきて、やけに楽しそうに猛った部分を握り込んできたジェイに、吐息混じりの小声で答えた。


 入院してから一度もしてなかったし、それ以前に、怪我した身体中が痛くて、そんな気にもならなかった。
 泡を洗い流した裸身の勃ち上がった部分を弄りながら、背後からピッタリと身体を合わせてきたジェイの、熱い昂りが腰に触れた瞬間、思わず甘い啼き声を上げた。
「……あ、ジェイ……中も……」
「大丈夫か? 無理はしなくていいぞ。コレだけでも気持ち好いだろう?」
「ん、平気……すっげぇしたいから……」
 彼の猛ったモノを感じて、このまま何もせずに終れる筈がない。スルリと滑り込んできた指先に内襞を解され、腰の奥がじんわりと甘く疼いてくる。
 ジェイと一緒に暮らす様になって、こんなに長い間、身体を合わせなかったのは、多分、初めてだと思う。
 もしかして、ジェイも我慢してたのかな……って、傷を労わる優しい手付きではあるけど、いつになく性急に先を急いでくる彼の指先を感じながら、そんな事を考えていた。


「あ……っん、……」
 押入ってくる彼のモノが、ゆっくりと身体の奥にへと分け入ってくる。
 片手でバスルームの壁にもたれかかって、彼を受け入れ、最深部にジェイの昂りが到達した瞬間、快感が身体を突き抜けていった。


「もうイッたのか? 早過ぎるぞ」
「……久しぶりだから。何か我慢出来なかった……」
 ククッと笑って問いかけてくるジェイに、ちょっと恥ずかしくてムスっとしながら答えてやった。
 濡れたまま弄ってくる彼の掌が気持ち好くて、放ったばかりだというのに、また快感が押し寄せてくる。
 でも、先に達してしまったのをからかってくるジェイのモノだって、普段より絶対に硬く勃ち上がっている。だから少し恥ずかしいけど、別に良いかな……って思いながら、ゆっくりと動き始めた彼に身を任せて、また甘い啼き声を上げた。
 背後からピッタリと覆い被さってきたジェイに、お腹の辺りを左腕で抱きかかえられて、右手であの部分を抜き上げられる。両方いっぺんにされてしまって、バスルームの壁に縋り付いて、喘ぐ事しか出来なかった。


 激しく内襞を突き上げながら、時折、耳朶を甘噛みしてくる、彼の荒い吐息が心地好い。
 自分が気持ち好いのも確かだけど、それ以上に、やっぱりジェイが俺のナカで感じてくれてるって事の方が嬉しかった。
 もう半月程はしてなかったから、ジェイが他のヤツと寝てきても文句は言えないな……って思ってたけど、どうやら彼は我慢してくれていたらしい。
 いつもより早く達したジェイのモノをきつく締め付けたまま、淫らな手付きで猛ったモノを弄ってくる彼の掌の中に、二回目の甘い蜜を身を震わせながら放っていた。






 温めのお湯を張ったバスタブに浸かって、濡らしたタオルで頬を暖めながら、身体を洗うジェイの姿をぼんやりと眺めてみる。
 久しぶりに彼の裸身を見たけど、やっぱりいつ見てもガッシリしててカッコ良いと思う。
 スラムの話なんて何だか聞いてるだけでも凄かったし、ジェイも喧嘩は強いんだろうな……とか、あれこれと考えていると、身体を洗い終わった彼が、バスタブの中に入ってきた。


「何をジッと見てるんだ。まだ物足りねぇのか? 何なら、もう一度やっても良いけどな」
「……ジェイのバカ。違うって。身体も大きいから、喧嘩もマジで強そうだなってさ」
「何だ、ソッチか。随分と腕は落ちただろうが、まぁ、今でも弱い方じゃねぇだろうな。元々は自己流だが、中川に基本的な事は教わった。動きが付いていくかどうかは分からないが、理屈的な事は今でも覚えている」
 そう言いながら腕を引いてきたジェイが、膝の上まで身体を持ち上げて、向かい合わせに座らせてくれる。左腕を伸ばして、もう痛みも収まってきた背中をゆったりと抱き締めてくれながら、右手の方では、頬を暖める手を代わってくれた。


 またお湯で濡らし直して、暖かくなったタオルが触れる頬が、ほんのりと気持ち良い。
 抱きついた彼の身体も居心地が良くて、肩口に頭を乗せて甘えながら眸を閉じた。


「ジェイも喧嘩した時に殴られて、こんな感じで頬が腫れた事ってある?」
「あぁ、最初の頃はな。お前と同じで、口の中を切った事もあるな」
「そっかぁ、ちょっと安心した……あのさ、話変わるけど、余ってるパソコンってある? 沢山時間あるから、ちょっと練習しようかな」
「俺が以前使ってたヤツを、確かそのまま残している筈だ。とりあえず、それを使うといい。古いヤツだが、ネット位なら充分使える。使い方に慣れて自分の好みが出てきたら、新しいのを買いに行くか?」
「ん、それでいい。全然使った事無いから、変な事して壊しそうで怖いからさ。ジェイが要らなくなったので良いな」
 ジェイの肩に頭を乗っけたまま、彼の言葉に満足して頷いた。
 もう子供じゃないんだから、俺もしっかりしなきゃダメだよな……って思うけど、やっぱり、ジェイに甘えるのは、凄く安心して気持ち良い。
 もし、ジェイとこんな関係になってなかったら、俺は何をしてたんだろう? って考えてみても、今じゃ全然想像すら出来なくなった。
 ジェイの事を好きになって、一緒に暮らせて本当に嬉しいなって思ってるから、もう少しだけ、甘えていたい。
 早く腕の骨折も治して、もっとギュッて抱き付きたいな、って考えながら、バスタブの縁に左腕を乗せたまま、のんびりと久しぶりのお風呂を堪能していた。






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2009/3/7  yuuki yasuhara  All rights reserved.